As You Like It     ~気が向くままに~

「ふるぼう」のブログがYahooから引っ越しました。

東京ラブストーリーの旅

昨日の朝日新聞土曜版「be」に記事が出ていたのを、読まれた人も多かったのではないでしょうか?

紫門ふみさんが原作のこのドラマが最初に放送されたとき、私は高校生でした。
リカのカンチへの激しい愛・・・だけど2人はやっぱり分かりあえないんです。
カンチは同じ故郷出身のさとみが忘れられなくて、さとみを選んでしまうんです。

ドラマの最終回で、リカはカンチの故郷に行きます。
そう、四国の松山へ。

「4時48分の電車に乗るから、会いたいからさよならはいわないよ」
リカが乗る電車を目指してカンチは猛ダッシュをしますが、リカは1本前の電車に乗って東京へ帰ってしまいました。
「バイバイ、カンチ」ってハンカチにルージュで書かれたメッセージが、ホームのフェンスに結ばれたままで・・・電車の中で涙が止まらないリカにもらい泣きをしたものです。

私は、リカみたいに自分から体当たりの恋愛はできないな、とどこかで思っていました。
だから、よけいにリカに感情移入しちゃうんじゃないかな、って。

こんな涙なしでは見られないドラマを書いた紫門ふみさんって・・・そのことも私が志望大学を決めた理由の1つです。
紫門さんと学科こそ違いますが、かつて紫門さんもすごしたキャンパスに通える通知をもらってから、入学までの日を待つ間、私はせっせと彼女のエッセイを読んでいました。

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そして月日は流れて、私は大学を卒業し、就職し、どちらかというとさとみに近いタイプの恋愛を経て結婚しました。
乳がんが発覚して、東京と松山を往復する遠距離通院が始まります。
そんな日々の中で、すっかりこのドラマのことを忘れ去っていました。

東京で現在の主治医K先生と出会ってからしばらくしたころ、再び松山の執刀医の診察を受ける話が持ち上がりました。折りしも、日韓ワールドカップの最中です。

松山の病院で、骨シンチのための注射をされ、スキャンするために数時間待つことに。
ふらりと私は病院を出て、伊予鉄道に乗りました。
いつもとは逆方向へ。電車に乗って20分もすぎたでしょうか。目の前には穏やかな瀬戸内の海が広がります。
観覧車が見える「梅津寺」で電車を降りました。
目の前には今なおたくさんのハンカチがはためくホームの手すりが、その向こうに広がる海。

2002年、初夏。やっと私はこの場所に来ることができました。
今までも散々チャンスがありながら、なぜこのときに来たいと思ったのか・・・
やっと心の中で、このことを思い出す余裕ができたのでしょう。
でも、このときの私はこれからの治療のこと、東京と松山の主治医のこと、中途半端な仕事のこと、本当に将来子供を産めるのかという押しつぶされる不安・・・すべてに疲れきっていました。会社もふたたび休職して心を休めていた時だったのです。
そんな私に、白いハンカチがはためくホームと穏やかな瀬戸内海は、なにより優しく染み入ってきました。
私は持っていたハンカチをきつく結び付けました。

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朝日新聞の記事は、そんなことを思い出させてくれました。
松山の病院には、今でも執刀医のおふとりさまがいます。
今はもう東京のK先生が主治医ですので、おふとりさまに会えるのは年に1度、あるかないかでしょう。
K先生は、乳がんの専門医ですから、これまでも、これからも私のよき参謀として、お世話になっていきたいです。それでも、時々おふとりさまのことを思い出さずにはいられないんです。
恋愛とは違いますよ(笑)でも飛行機で東京と松山を往復するたびに、東京ラブストーリーの原作で、カンチが東京に戻る機内で東京の街明かりを見るワンカットを思い出してしまいます。

そういえば、あの時の私は骨シンチの注射をされていたんですよ。
ということは、微量の放射線を発しながらあの場所にいたってことです。