As You Like It     ~気が向くままに~

「ふるぼう」のブログがYahooから引っ越しました。

栗本薫さん

かつての趣味は読書でした、などと言っておきながら、私は栗本薫さんの小説を読んだことがありません。
著作数があまりにも膨大でどれから読んだらいいのか分からなかったのです。
夫は「グイン・サーガ」よりも「魔界水滸伝」の方が面白かったと言います。

女子大に通っていた時のこと。
女子ばかりの空間というのは、時にいろいろなものが流行ります。

あれが私の21歳か22歳の誕生日だったのか、いや誕生日だったのかも定かではないのですが、友人が「これをまるちゃんにプレゼント」(←私の当時のあだ名ね)と数冊のハードカバーの本をくれました。

「私説三国志」と書いてあります。
やたら美しい諸葛孔明の絵も描かれていました。
栗本薫が絶賛した!大型女流新人」作家による小説だそうです。
栗本薫が絶賛したのなら、さぞかしすごい期待の新人に違いないと私は「素直に」そう思いました。

こうして本を開くと、3ページもしないうちに…

「※△☆◎♂×♂〇◇▽☆~!!」

当時の私は免疫がなかったんですな。こういうモノに(笑)

今ではこの手の作品はBL(ボーイズラブ)小説と言われ、ある種の分野を確立していますが、当時はそれらの作品が掲載されていた雑誌の名前を取って「JUNE」と言ってたような記憶があります。栗本薫さんは中島梓名義で、JUNEでも新人作家を育成されていたんですよね。

何はともあれ、まだ彼氏もいなかった私にはその世界は強烈過ぎて、バタンと本を閉じてしまい、まとめてしまい込んでしまいました。

その後就職で実家を出る時に引っ越し荷物をまとめながら「受験生の妹がこれを読んだらマズいなぁ」と思い、とりあえずダンボールに入れました。そして結婚で独身寮を出る時に「コレを持って新居に行くのか?」と逡巡したあげく、当時の友人にまとめて手渡してしまったのです。

友だちよスマン!今なら余裕で読めるぞよ。
(あー、でも今読んだらアタマの中で金城武とトニーのリアル映像が展開されてしまうぞ…究極のフォーカシングになってしまう!?)

結局私が読んだ栗本薫さんの著作は、中島梓名義の「アマゾネスのように」だけです。

栗本薫さんは1990年に30代で乳がんを体験され、日大駿河台病院で全摘手術を受けています。
著名な乳がん体験記でも、千葉敦子さんや松井真知子さんのものは術後間もない私にはツラすぎた。でも栗本薫さんの息をつかせぬ文体の体験談は、いかにもがん闘病って感じがしなくて、悲壮感漂わないものでした。

読みながら「なんだか私も栗本薫さんのようにイケるかもしれない」と思ってきたんです。そしてそのまま現在まで9年近い月日が経ちました。

いつぞや何かの対談で、栗本薫さんは「乳房再建とか、私には何かしっくりこない」と語っていたことがあります。「アマゾネス」を貫いた彼女は再建手術を受けることはありませんでした。それは栗本薫さんらしい筋の通った生き方だと思いました。

私にとって乳房再建は悲願だったので、今は精神的QOLがとても高くなったのですが、受けない自由というのももちろんある。今はまだ特別なオプションみたいに考えられている(それでも以前に比べたらぐっと敷居は低くなったか…)乳房再建をもっともっと肩肘張らずに考えられる時代が来てほしいと思います。

栗本薫さんの乳がんはその後再発することはありませんでしたが、新たに発生した膵臓がんが彼女の命を奪ってしまったのです。まだまだ書きたいことがたくさんあったことでしょう。「グイン・サーガ」は未完の大河小説となってしまいました。読者が思い思いの結末を想像するのでしょうか?

栗本薫さんのご冥福を心よりお祈りいたします。