As You Like It     ~気が向くままに~

「ふるぼう」のブログがYahooから引っ越しました。

治験終了

昨年から喘息の治験患者をやっていました。
昨年の夏から参加しているのでずいぶん長丁場のものでした。
私の子どもの頃からの持病である喘息は、ずっと吸入ステロイドを使っているおかげで発作も起こさずにコントロールされており、高校生頃からは発作を起こすこともなく、日常生活に支障をきたすこともないのです。だったら治ったのではないかと言われそうですが、妙にカビっぽいところやホコリっぽいところに行くと気管が狭まるような息苦しさを感じるし、外来の度に行っている呼吸機能検査は、健康な人の8割くらいの値しか出ないので、喘息発作につながる恐れがある「慢性的な気管支の炎症」はずっとおさまっていないことが分かっています。

さて、今回参加した治験は「アレルゲンを舌下錠にしたものを毎日服用して、減感作できるか」というものでした。
アレルギー体質の治療法として、わざと原因物質を身体に入れて慣らしていくという「減感作療法」はずっと前からありました。うまくいけば体質が変わって薬が要らなくなるのだからいいのですが、大発作を起こすリスクも高く、慎重にやるべき治療法なので、薬で上手くコントロールできている場合にはあまり適用されませんでした。

が、花粉症に対して、アレルゲンの舌下錠減感作療法が実用化されたことから、喘息についても同様の薬剤を開発することになったのです(花粉症については,日本では近いうちに認可が下りるのではないかと言われています)。
そして、昨年からこの治験薬の服用が始まりました。

今回の治験は新薬の承認に必要な試験(二重盲検試験)です。治験に参加する患者は、本当に薬の成分が入ったもの(実薬)を服用するグループと偽物(プラセボ)を服用するグループに分けられます。実薬グループで効いてプラセボグループで効かなかったら初めて薬の効果が実証されたことになります。
そして,最大の特徴は「自分が飲んでいるのが実薬なのかプラセボなのか,自分にも医師にも治験コーディネーターさんにも分からない」ということです。
ヒトには「プラセボ効果」というのがあり,たとえ薬の成分が入っていなくても「これは○○に効く薬だよ」と言われると,効いたような気分になってしまうことがあります。なので,あらかじめ先入観を持たないよう,製薬会社の人以外は誰も分からない条件で治験をするのです。
 
いきなり治験薬のみを服用するというのは危険なので,まずは治験薬とともに喘息のコントロールに使われている吸入ステロイドを一緒に使用します。治験薬は段階的に濃度が上がるという設定になっています(もしもプラセボ群に入っていれば,当然濃度は上がりません)。その状態を何ヶ月もキープしていきます。私の場合,治験薬の濃度を上げたときになぜか一時的に軽い頭痛が続いた,というよく分からない状態になりましたがそのうちに消失してしまいました。あの頭痛が治験薬の副作用だったのか,たまたま起こった現象なのかは今もって分かりません。
そして,今年の夏ごろから段階的に吸入ステロイドの薬を減らし始めました。実薬を投与されていて,それが効いているのであれば,吸入ステロイドを減らしても喘息発作は起こらないはずです。減量している段階では,呼吸機能等にそれほどの変化はありませんでした。
 
この段階をクリアしたので,いよいよ11月半ばより「吸入ステロイドを完全にストップし,治験薬だけで呼吸機能が維持できるか」という状態にしました。主治医も,コーディネーターさんも,そして患者自身が何よりドキドキする段階です。私自身,吸入ステロイドを吸うのを辞めたことはこれまでありません。かれこれ10年以上は吸い続けています(それ以前は,別の喘息発作予防薬を吸入していました)。もちろんいきなり喘息発作が起こったら危険ですから,毎朝晩と自宅で簡単な呼吸機能測定をして,息苦しくなったり喘息発作が起こったときのための薬は渡されています。
 
ステロイドを切ってから最初の1週間は,予想外に何も怒らずに日々が過ぎていきました。
ステロイドをやめたらヤバイ・・・という心理的効果で状態が悪くなるかと思ったらそうはならずにほっとしました。
そして,2週間目も特に何もトラブルがなかったのですが・・・2週間を過ぎたころから,呼吸機能の値が徐々に下がり始めました。
そして,喘息発作の前触れのような気管が狭まって息苦しいような感覚が増えていったわけです。
当然,状態を悪化させないためにレスキューの薬を吸入するのですが,それまでも年に数回調子が悪くなってこの薬を吸入することはありました。でも,吸入ステロイドできちんと予防している時は,この薬を何度も連続で使用することはないのに,今回は毎日連続して吸うことになってしまったのです。
 
これ以上呼吸機能を低下させては年末年始を乗り切れない-
次の外来の予定は前回の4週間後でしたが,それまでこの状態を続けるのは危険と判断し,治験コーディネーターさんに連絡を取って急遽診察の予定を入れていただきました。
 
病院についていつもの呼吸機能検査を受けると,明らかに前回より測定値が下がっています。
それに,これまで聴こえることがなかった「ヒュー」という音が気管の奥の方からしてきたので,検査技師さんも「これはもうアウトでしょう」と苦笑いしておっしゃいました。主治医の先生もすぐに「治験は中止して,もとの吸入ステロイドに戻しましょう」と即決してくださいました。
 
よって,喘息症状の増悪により,治験は中止。
 
元の薬に戻したら,呼吸機能の数値も元にもどり,息苦しさも感じなくなりました。
なぜ私の症状が今回悪化したのか,その原因はいくつか推察できます。
 
・治験薬が単に効いていなかった可能性
・治験薬がプラセボだった可能性
・吸入ステロイドをやめたら不安・・・という心理的効果が大きくて悪化した可能性
 
どの理由によるのかは,今の段階では分からないのですが,逆にはっきりしたことは,
 
・吸入ステロイドによって,私の喘息は良くコントロールされている
 
ということでした。だからこれからも肌身離さずこの薬を持って歩くことになるかと思います。
(もし,3.11みたいなことがまた起こってしまい,帰宅難民になったとしても,カバンの中に必ず1つは吸入ステロイドを入れておけば安心なのです。持病を持っている方は,常備薬をお守りのように持っていると安心です)
 
何はともあれ,治験コーディネーターさんと自分自身にお疲れさまでしたと言いたいです。