As You Like It     ~気が向くままに~

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アリスのままで

気温が下がったといっても、雨が続くと蒸し暑さが不快で結局クーラーをつけてしまいます。この夏は雨ばかり⇒猛暑の連続⇒雨ばかりと極端すぎて困る夏でしたね。さて、夏休みの映画の続きです。

監督:リチャード・グラツァー & ワッシュ・ウェストモアランド

50歳の言語学者アリス(ジュリアン・ムーア)は、大学での講義中に言葉が思い出せなくなったり、ジョギング中に家に戻るルートがわからなくなるなどの異変に戸惑う。やがて若年性アルツハイマー病と診断された彼女は、家族からサポートを受けるも徐々に記憶が薄れていく。ある日、アリスはパソコンに保存されていたビデオメッセージを発見し……。
若年性アルツハイマー病と診断された50歳の言語学者の苦悩と葛藤、そして彼女を支える家族との絆を描く人間ドラマ。ベストセラー小説「静かなアリス」を基に、自身もALS(筋委縮性側索硬化症)を患ったリチャード・グラツァーと、ワッシュ・ウェストモアランドのコンビが監督を務めた。日に日に記憶を失っていくヒロインをジュリアン・ムーアが熱演し、数多くの映画賞を席巻。彼女を見守る家族をアレック・ボールドウィンクリステン・スチュワートケイト・ボスワースが演じる。

主人公アリスを演じているジュリアン・ムーアさんはこの作品でアカデミー賞主演女優賞を受賞しただけでなく、世界主要6大映画賞の「主演女優賞」制覇という快挙を成し遂げました。
ヒロインが若年性アルツハイマーに侵されるストーリーの映画、といえばなんと言っても「私の頭の中の消しゴム」ではないかと思います。日本のドラマでも似たような話がありましたよね…ちょっとググってみたところ、永作博美さん主演のドラマの方が先で、私の頭の中の消しゴムはドラマをベースに作られた作品でした。

若年性アルツハイマーといっても「私の頭の~」のように20代で発病してしまうようなケースは現実では殆ど無いので、どこか絵空事の物語のような気がしてしまいましたが、この「アリスのままで」は違いました。
言語学者として活躍していた主人公は50歳の誕生日を迎えてまもなく異変に気がつくのですが、すごくリアリティがあったのです。講演中に文章を忘れてしまったり、大学構内をジョギングしていて道が分からなくなったりといったアルツハイマー病の兆候を、アリスの立場で体験しているような気分になり、なんとも言えない怖さや不安が伝わってきました。

アリスはまだ病状が初期段階の時に、もっと進んだらどうするべきかビデオメッセージを残しておきます。認知症の患者として講演することもできました。でも少しずつ、そして確実にアリスの記憶はなくなり、アリスはアリスでなくなっていきました。月日がたってビデオメッセージを見つけたとき、アリスはそれを自分が作ったことも忘れていたのです。ビデオメッセージのままに動くことは最早できませんでした。その様子がとても自然に描かれていて、この病気の残酷さや家族に与える影響の大きさをまざまざと実感できます。

3人の子どもたちのうち、アリスが一番心配しているのに関わらずぶつかってばかりで、上の二人のようなアカデミックな道に進まずに演劇に打ち込んでいる、家族の中でもちょっと異端児な末っ子リディアが最後は介護に当たることになります。現実的にはこの段階からの介護が一番大変なので、映画は綺麗事ばかり描いて終わってしまったかもしれません。その先のことはただ想像するしかないのですが、自分や家族が直面したらどうしたら良いのか…やはり答えは出ませんでした。

特に印象に残ったアリスのセリフに
「癌だったらよかった。恥ずかしくないから」
という言葉がありました。その気持ちも分かるのだけど・・・
癌の残酷さも、大変さも多少は分かっているつもりだから、認知症とどちらが良かったなんて考えてはいけないのだ、とも思います。