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「ふるぼう」のブログがYahooから引っ越しました。

ノーベル賞

昨日まで日中はまだ夏を思わせる暑さだったのに、週明けは突然肌寒くなりました。

そして、今年も日本人ノーベル賞受賞のニュースが飛び込んできました。
最初にその研究内容を聞いたときに、化学賞じゃなくて医学生理学賞なんだ?!と思ったのですが…

新薬を創出する研究の現場では、今は膨大な化合物ライブラリーから、生理活性のある化合物を探索する研究手法が多いと思いますが、天然に存在する化学物質、植物や動物に含まれる成分や、土壌の微生物が作り出す成分に薬効があるかどうか探索する研究は、それよりずっと前から行われてきました。

青カビが作り出す抗生物質ペニシリンをはじめ、多くの薬が自然界から発見されていきました。抗がん剤のアドリアシンやタキソール、タキソテール等も土壌や植物に含まれる成分から見つかりました(漢方薬は薬草の成分を製剤化しますが、抗生物質等の西洋医学の薬剤を工業的に生産するときは、化合物である薬効成分を化学合成して大量生産することになります)。

今回ノーベル賞を受賞された大村さんは、ゴルフ場の土壌中から見つけた成分が、まずは寄生虫の駆除に有効ことを見いだしました。そして、共同研究したアメリカの巨大な製薬会社メルク社の研究員(今は大学教授で今回ノーベル賞を一緒に受賞したキャンベル氏)とともに、その成分をより効果が高くなるように改良し、イベルメクチンという薬剤にしたのです。イベルメクチンは家畜用の薬だけでなく、アフリカの風土病にも効果があり、2億人もの人を失明から救いました。

天然成分から薬効があるものを探す…書くのは簡単ですが、これがどれ程大変で確率の低いものか…数年ですが創薬研究の現場にいた立場としてその苦労を想像するのは難しくありません。

大村さんはイベルメクチンの特許によって得られた膨大なお金を地元山梨の学術発展や美術の為に使われましたが、八ヶ岳が美しく映える場所に建つ美術館と温泉は、ノーベル賞騒動が一段落した頃にでも行ってみたいと思います。

大村さんの研究人生を支え続けた奥さまは、15年前に乳がんで亡くなったそうです。世界2億人の人を救うことはできても、奥さまを助けることはできなかった…とても無念なことだったと思います。今なら術前術後の治療に使えるタキサン系もハーセプチンも、15年前には相当病気が進行してからでないと使えませんでした。あの頃と比べて化学療法は大きく変わりました。この分野でも多くの医療従事者や研究員がより効果の高い治療を見いだす為に尽力しています。10月はピンクリボン月間、検診が大切なのは言うまでもないことですが、不幸にも北斗晶さんのようにそれでも見つけられないこともあります。治療法が開発されて一人でも多くの人が救われますように。