グリーンブック
台風が西日本を縦断した終戦記念日でした。関東は大荒れの天気にはなりませんでしたが、多少猛暑が和らいだのが救いでした。
さて、映画のレビューですが、アカデミー賞作品賞受賞のこの作品は、日本でも春先の話題をさらっていました。
グリーンブック 監督:ピーター・ファレリー
1962年、ニューヨークの高級クラブで用心棒を務めるトニー・リップ(ヴィゴ・モーテンセン)は、クラブの改装が終わるまでの間、黒人ピアニストのドクター・シャーリー(マハーシャラ・アリ)の運転手として働くことになる。シャーリーは人種差別が根強く残る南部への演奏ツアーを計画していて、二人は黒人用旅行ガイド「グリーンブック」を頼りに旅立つ。出自も性格も違う彼らは衝突を繰り返すが、少しずつ打ち解けていく。
黒人ピアニストと彼に雇われた白人の用心棒兼運転手が、黒人用旅行ガイド「グリーンブック」を手に人種差別が残るアメリカ南部を巡る人間ドラマ。『はじまりへの旅』などのヴィゴ・モーテンセンと、『ムーンライト』などのマハーシャラ・アリが共演。『メリーに首ったけ』などのピーター・ファレリーが監督を務めた。アカデミー賞の前哨戦の一つとされるトロント国際映画祭で、最高賞の観客賞を獲得した。
日本人には耳慣れないタイトルの「グリーンブック」という響きからは、爽やかなイメージが漂っていますが、実際にはアメリカ南部を中心に黒人差別が色濃く残り、公共の場所で白人用と黒人用の施設が分けられていた時代の悲しい記憶が詰まっています。
英語の教科書でお馴染みのキング牧師の話など、この時代を扱った作品は多いですが「人を肌の色で差別してはいけませんよ」という道徳的メッセージが全面に出ているものも多いです。
もちろん、この作品でも冒頭で黒人が使ったグラスを捨ててしまったトニーが、黒人天才ピアニストのコンサートツアーの運転手&用心棒をすることになり、旅を通じて彼の意識が変わっていく、というステレオタイプなメッセージもあるのですが、コントみたいな二人の道中がエンターテイメント作品にしてくれています。そして、二人のやり取りの重要なキーパーソンとなるのがトニーの妻ドロレスです。
車中の二人の掛け合いが次第に楽しくなってきて、通じるものができてくるのに対し、差別意識の強い奥深い南部に入るにつれて理不尽なことが起きてきます。
音楽の英才教育を受け、ニューヨークのカーネギーホールを住処としているドクターは、一般的な黒人文化を知らない。そんな彼が差別の実態の真っ只中に突入し、自分のアイデンティティが揺らぎ、苦悩します。
そして、コンサートツアー最後の地では、ピアニストとしてホテルに招かれていながら、レストランで食事をすることが許されないという「なぜ?」「どうして?」の答えがどこにも見つからない理不尽な事実が待っていました。ついにホテルでの演奏を拒否したドクターは、場末の酒場にあった古ぼけたピアノを見つけます。彼が愛用しているスタインウェイではなく、そのピアノでショパンを奏でる人はいないでしょう。ドクターが初めて目にした、差別の中息づいている市井の人々。そこでの演奏は、どんなホールでの演奏より素晴らしく、楽しく、自分にも見えなかった彼の殻を破ったに違いありません。
さらに、映画に登場する陽気なトニーの親族たちは、実在のトニー・リップの親族が演じ、映画の脚本を担当しているのは、トニーの実の息子です。そんなところもこの作品にいっそうのリアリティを与えているかもしれませんね。